古田武彦の方法論

文献学の方法論

古田武彦の古代史研究の最大の眼目は、文献学の方法論にあると言っても過言ではありません。古田武彦は、自身の方法論を明示する事で、その主張に関し反対論者とも正しく対峙できるとしました。勿論文献学においての方法論とは古田武彦の提示したものが唯一では無いと思います。しかし、各論者がその主張の根幹をなす自身の方法論を明示しないままの主張は、「私はこう思う」という私見・感想の域を出ず、学問としての論証足りえないとし、それまでの古代史文献学に対し警鐘を鳴らしたのでした。

ではその古田武彦の方法論とは一体いかなるものか?それは、第1書『「邪馬台国」はなかった』においても明言しているように、シンプルに以下の内容です。

  • 「その1:取り扱う文献に対し、徹底した史料批判を行う事」
  • 「その2:取り扱う文献をその文献の”成立当時の記述ルール”で解読する事」

以上です。

では古田武彦の言うところの「取り扱う資料に対し、徹底した史料批判を行う事」とは具体的にはどういう事でしょうか?それは、その取り扱う文献が、「信用できるのか?出来ないのか?それとも一定の法則によって解読すれば信用できるものなのか?否か?」等の徹底吟味をまず最初に行う、という文献の扱いにおける手続き論です。

例えば古田武彦は魏志倭人伝を取り扱うにあたり、その信憑性を確認する為に、「魏志倭人伝は誤記載や誇大値が多く信用できない箇所が多い」とされてきた過去研究者の指摘事項や、自身の疑問点を一つ一つ愚直に吟味を行ったのでした。結果、「魏志倭人伝の記載は、あきらかに誤記載であるという記載個所は無く、むしろ極めて正確な記述がなされた文献である」と結論付け、陳寿を信用し魏志倭人伝の解読に向き合って行きます。

では次に、「その文献の“成立当時の記述ルール”で解読する事」とは具体的にはどういう事でしょうか?それは「その文献の全体像(当時の引用文献・参照文献を含む)から、解読対象の語彙や記述方式に関する“当時の記述ルール”を提示し、その”当時の記述ルール”に基づいて解読していく」という手法です。

例えば古田武彦は『三国志』魏志倭人伝の解読にあたっては、①『三国志』全体の記述ルールを提示し、②その上で、『三国志』の一部である魏志倭人伝を帰納的に解読、理解していく、という事を行ったのでした。

言われてみれば古田武彦の方法論とは、極めて普通の事に思えます。ただ、実際にそれを行うのには多大な労力と時間を費やす事になるのも確かです。しかし古田武彦はそれを愚直に行ったのでした。

本会のホームページでは、個々著作物におけるそれら方法論に基づいた解読の結果(主張と論拠記載個所)を提示していきたいと思います。

以上